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甲府地方裁判所 昭和33年(ワ)91号 判決 1959年8月21日

原告 中央食品工業株式会社

被告 日本通運株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金一七四、五一七円およびこれに対する昭和二九年八月一日から完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は被告の負担とする、との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

「被告は物品運送取扱を業とするものであるが、被告会社甲府支店と原告との、乾麺五〇三箱の運送取扱契約に基き、昭和二九年六月三〇日頃国鉄韮崎駅から弘前駅まで、ならびに同年七月二〇日頃弘前駅から韮崎駅まで、それぞれ鉄道による右物品の輸送をなした。

被告会社が甲府支店の扱いで右乾麺を韮崎駅から発送した当日は雨天であつて、乾麺はその性質上湿気を嫌うので、被告としては、雨水を防ぐため万全の措置を講ずべきであつたのに、乾麺をトラツクから鉄道貨車に積み込むに際しシート等を用いず作業の中止もせず屋外で積替え作業を継続したため乾麺は雨水のため漏れ損じ、弘前市の取引先から返品されて前記の通り往復の輸送となつたものである。そして原告は被告の前記過失に因つて次の通りの損害を蒙るに至つた。

一、乾麺九六箱を汚損により廃棄。一箱の代金九五〇円として合計九一、二〇〇円

二、同四〇七個分を再製。一箱の加工費用二五〇円として合計一〇一、七五〇円

三、商品選別に使用した人夫賃、一人三〇〇円として二〇人分合計六、〇〇〇円

四、再製分の段ボール素麺箱代、一個三一円として合計一二、六一七円

以上合計二一一、五六七円となるが、韮崎駅弘前駅間の往復運送賃および取扱手数料合計三七、〇五〇円は原告から被告に支払うべきものであるからこれを差引けば一七四、五一七円となる。よつて原告は被告に対し、前記物品運送取扱契約の違反により蒙つた損害の賠償として金一七四、五一七円とこれに対する損害発生の日の翌月である昭和二九年八月一日から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである」

と述べ、被告の抗弁事実を全部否認し、とくに時効の抗弁に対し、

「被告は商法第五六六条に規定する一年の時効期間を援用するが、同条第一項によれば右期間は荷受人が運送品を受取つた日から起算すべきところ本件においては前記の通り荷受人が運送品たる乾麺の受取りを拒み返送されたので、同条の適用はない。仮りにそうでないとしても、被告は物品を原告に引渡すに際し、それが雨に漏れたため返送されたものであることを知りまた損害の発生を知つて、運送取扱人としての責任を認めていたので、同条第三項にいわゆる運送取扱人に悪意ありたる場合に該当するので本条の適用はない。また本訴の損害賠償請求は被告の不法行為に因るものではないから、民法第七二四条(時効期間三年)の適用もなく、単純なる商事債権として商法第五二二条により時効期間は五年であるから、被告の時効の抗弁は理由がない」

と述べた。

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁ならびに抗弁として、

「被告が物品運送取扱を業とするものであり、原告主張の日時、原告と乾麺五〇三箱の鉄道による運送取扱契約をなし韮崎弘前両駅間の往復輸送をした事実は認めるが、右運送取扱について被告に過失があつたことは否認し、原告が損害を蒙つたことならびにその額については知らない。

本件運送品が漏れ損じたのは、訴外甲州貨物自動車株式会社が独立に原告から請負つてなした、原告会社工場と韮崎駅間の自動車運送の途上において発生したもので、しかも被告と右訴外会社とは相次運送の関係にないから、被告の関知しないところである。仮りに右の事故が被告の担当区間において発生したものとしても、被告は物品の輸送・取扱について善良なる管理者の注意を以てなしたから何ら過失の責むべきものはない。仮に過失があるとするも、原告の、荷送りおよび運送取扱の指示について原告側にも過失があるから、被告の責任および損害額の算定につき斟酌されるべきである。また仮りに原告に損害ありとするもその総額は一二五、六三六円五〇銭であり、被告の有する運賃債権三七、〇五〇円を差引き八八、五八六円にすぎない。

つぎに本件の事故は昭和二九年六月三〇日ないし同年七月二〇日に発生したものであつて、商法第五六六条の適用により、被告が運送品を荷受人(本件においては往復運送であるから荷受人である原告が自ら荷受人となる)に引渡した時から一年を経過した昭和三〇年七月二四日の経過を以て被告の責任は時効によつて消滅したものである。原告は、被告悪意の場合であるから、右短期時効の制度は適用がないとするが、被告に悪意があつたとの原告の主張事実は否認する。商法第五六六条第三項にいわゆる悪意とは、損害をことさらに隠蔽しあるいは運送品を滅失・毀損または延着せしめようと欲することであると解すべきところ、被告はこれらの意図は全然なく、また物品を原告に引渡すに際しても汚損事故のあることを全く知らなかつたのであるから、もとより「運送取扱人に悪意ありたる場合」に該当すべくもない。なお仮りに本件に商法第五六六条の適用がないとしても、本件は同時に不法行為に基く損害賠償責任を問うものであるから被告の責任は民法第七二二条により、原告において損害を知つた時から三年間すなわち昭和三二年七月二〇日を以て時効により消滅したものであり、いずれにしても原告の本訴請求は失当として棄却さるべきである。」

と述べた。

立証として原告訴訟代理人は甲第一ないし第十五号証(第五、一一号証は各一、二、第七、一二号証は各一、二、三)を提出し、証人岩下慎斉の尋問を求め乙号証の成立は全通不知と述べた。

被告訴訟代理人は乙第一号証の一、二、三、乙第二、三号証を提出し、証人滝田隆三、横内清治の各尋問を求め、甲号証の成立を全部認めた。

理由

被告が物品運送取扱を業とする会社であり、昭和二九年六月三〇日および同年七月二〇日、原告との物品運送取扱契約に基き、乾麺五〇三箱を、鉄道により、韮崎駅と弘前駅間を往復輸送した事実は当事者間に争がなく、被告は右物品を昭和二九年七月二四日に原告に引渡した事実は原告の明らかに争わないところである。

被告は、仮りに右の物品運送取扱契約に関して被告から原告に損害を賠償する義務があるとしても商法第五六六条により右引渡の時から一年の短期時効によつて被告の責任は消滅した旨を主張し、原告は本件は、商法第五六六条を適用すべき場合でないと抗争するのでまずその点について考えてみよう。

商法第五六六条第一項にいわゆる荷受人とは、運送取扱委託者によつて運送品の受取人と定められた者をいゝ、必らずしも運送契約上の荷受人とは限らないから、本件のように、運送取扱契約に基いて、一旦目的地まで輸送した物品を、受取人が受取らないまゝさらに返送した場合には、結局、その運送取扱契約による運送の委託者すなわち当初の荷送人が荷受人となることは、とくに説明するまでもないことである。したがつて本件において原告が乾麺を受取つた日として当事者間に争のない昭和二九年七月二四日はすなわち商法第五六六条にいわゆる、荷受人が運送品を受取りたる日にあたることは明らかである。つぎに原告は、運送品を受取る際被告に悪意があつたと主張するが、本件に現われた全証拠によるも、いまだその事実を認めることができない。もつとも成立に争ない甲第一二号証の二および証人滝田隆三の証言を総合すれば、被告から原告に本件の運送品を引渡した数日後に、当時の被告会社韮崎営業所長滝田隆三と訴外甲州貨物自動車株式会社の配車係岩下慎斉とが原告会社に行つて、本件の乾麺が雨に濡れたゝめかびを生じていることを知るに至つた事実が認められるけれども右の事実はもとより、物品の引渡に際して被告会社に悪意のあつた事実の認定資料とはならない。したがつて、商法第五六六条第三項を援用して本件については同条の適用がないとする原告の再抗弁は理由がない。されば仮りに原告主張のように本件運送取扱契約の違反によつて被告に損害賠償の責任を生じたとしても、右の責任は被告から原告に運送品の引渡しを了した昭和二九年七月二四日から一年を経過した昭和三〇年七月二四日を以てすなわち本件の訴提起前にすでに時効により消滅したものといわなければならない。原告は右時効の完成を妨げる事由について他に何らの主張立証をしていない。よつて被告の時効の抗弁を理由ありと認め、その余の争点に関する判断をすべて省略して原告の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 岡村治信)

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